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研究の目的

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分子自由度が拓く新物質科学

 固体物質における伝導性、磁性、誘電性、光物性など多岐に渡る物性の発現は、ひとえに原子あるいは分子がどのように凝集するか、その凝集の様式に依存している。様々な物理現象の普遍性と多様性を追求する物性科学も、手にする構成要素の種類、あるいは、個性によってその展開が大きく変わってくる。原子が積み上げられることによって生じる無機物質に比べると、分子という単位で積み上げられる分子性物質には、質的に異なる自由度が存在する。例えば、ある格子点に位置する分子には、その向きの自由度である剛体自由度が存在する。その結果、同じ分子からなる物質であっても、各分子がその環境に応じて異なる向きや配列で凝集することによって、全く異なる物性が生じ得る。また、分子内で空間的に広がった分子軌道は、化学修飾や原子置換によって、そのエネルギーや形状を大きく変化させる。このことから、非常に似通った分子配列を持つ物質でも、分子の軌道自由度によってその物性を広範に制御することが可能である。さらに、分子には屈曲や伸縮などの内部変形の自由度も存在するが、それらは、上記の剛体自由度や軌道自由度と密接に関係してくる。このような"分子自由度"は、他の物質群には無い分子性物質に特有のものであり、分子性物質の多彩な物性の源泉となるものである。
 以上の背景から、分子自由度が新しい物質科学のパラダイムをつくる可能性に注目し、この自由度が積極的に関与する物性を開拓することを目指して、これまで発展を遂げてきたそれぞれの領域(伝導性、磁性、誘電性、光物性)の枠を超えた統合的な新しい学術領域「分子自由度が拓く新物質科学」をここに提案する。
 本申請の立案は、これまでの研究成果に立脚している。分子性伝導体においては、各種絶縁体から超伝導体まで多様な電子相の存在が明らかになっているが、分子の幾何学的自由度をパラメータとして統一的に理解されつつある。特に、同一物質において加圧による分子配列の制御を行うことにより、電荷秩序強誘電相、超伝導相、そしてゼロギャップ伝導相へと転移することが見出されており、当該分野を越えて注目を集めている。一方、多くの分子性伝導体の伝導バンドは、分子あたり一つの分子軌道から構成されているが、最近の研究から、複数の軌道を有する物質が高い転移温度を持つ金属的反強磁性を示したり、スピン液体と非磁性一重項状態との競合を示すことが最近見出されている。また、π軌道とd軌道が相互作用する電子系においては、磁場誘起超伝導をはじめ伝導性と磁性が絡み合う興味ある現象が見出されている。さらに、水素結合を有する分子性固体においては、水素の微小変位による分子軌道の大きな分極が観測され新しい誘電現象として注目されている。これらの結果は、分子の軌道自由度が新しい物性発現の鍵を握っていることを物語っている。物質の状態制御という観点では、光による電子励起をきっかけとして固体内の分子自由度の変化を誘起し、非平衡相転移へと導く光相制御の研究が活発に行われている。特に、電荷秩序と分子の形状の自由度が強く結合する系において、巨大な光応答や電場応答が見出されている。このように、分子性物質に特有で興味深い物性が続々と明らかにされつつあるが、その背後にあるものは、設計・制御可能な分子が持つ自由度である。
 以上を踏まえ、私達は、分子の配列自由度と内部構造自由度を総合した分子自由度という視点で分子性物質の研究を統合的・組織的に推進することで、物質科学の新しい潮流をつくることができると考え、この新学術領域研究を立ち上げる。そこでは、(i)電子相の開拓、(ii)外部刺激による電子相の制御、(iii)分子及び分子配列の開発と制御、を3本柱として研究を推進する。



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