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計画班研究の概要

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A01班:分子配列自由度を利用した新規電子相の開拓 構成メンバー
 非球形である分子は対称性が悪いために、多様な配列パターンで凝集する。さらに、凝集が分子間の弱いファンデアワールス相互作用によるために、格子は圧力によって容易に圧縮・変形し得る。この特徴が構造の多様性を生み、物性の包括的な研究を可能にする。本計画研究では、分子配列が物性を支配する重要なパラメータであるとの認識のもと、分子配列自由度を化学圧力及び物理圧力を駆使して制御することにより、物性科学の根幹に関わる問題に実験的及び理論的に挑むとともに、新しい電子相の開拓を目指す。
 具体的には、格子の幾何学的フラストレーションを制御することにより、これまで独立に研究されてきたスピンフラストレーションの物理学とモット転移の物理学の融合領域を新たに開拓する。また、単位胞に非等価な分子を含むある種の分子配列で実現しているゼロギャップ伝道状態の特異な輸送特性と磁場効果を明らかにするとともに、圧力変化により現れる電荷秩序相、超伝導相などの質的に異なる相との関連を調べ、格子のトポロジーをパラメーターとした、半導体物理学、強相関物理学、及び超伝物理学を包括する電子物性の学理の構築を目指す。また、誘電物性に関連して、双極子モーメントと伝導電子の相互作用や電荷移動の量子揺らぎが引き起こす新規な誘電相の探索を行う。


A02班:分子軌道設計による新規電子相の開拓 構成メンバー
 分子物質では「分子軌道制御」により、新規な電子相を探索する事が可能である。分子性導体の伝導バンドは通常1つの分子軌道(HOMO あるいはLUMO)から形成される。しかし、Pd(dmit)2では、二量化によって準位が逆転したHOMO とLUMO の2つの分子軌道が関与し、さらにスピン、電荷、格子が絡むことによって、完全電荷分離、VB(Valence Bond)整列相等、従来の分子性導体では見られなかった様々な電子状態が産み出された。一方、最近小さなHOMO-LUMO ギャップを持つ分子の設計によって実現した単一分子性金属では、分子の僅かな化学置換により、高い磁気転移温度を持つ磁性分子金属が出現した。また、水素結合を有する中性分子性固体においては、水素の僅かな変位が分子軌道の対称性を崩し分極を誘発させる新種の強誘電体が示唆されている。分子軌道の外部要因に対するこのような高い感受性を利用し、伝導性から磁性、誘電性にわたる広い領域において、従来とは異なる電子相を持つ物質の開拓を行う。第一原理計算では、様々な外場における分子の電子状態、物性の予測を試み、また、放射光を用いて鍵となる分子の精密電子密度解析を行う。


A03班:スピン自由度を利用した電子相制御 構成メンバー
 3d 元素等を結晶中に導入することで、大きな磁性を持つ有機導体が多く合成されている。この大きな磁性を担う局在電子(3d 電子)と、伝導を担う有機分子軌道上の電子(π電子)との間に、大きな相互作用(π-d相互作用)を持たせることで、磁場誘起超伝導や巨大磁気抵抗が発見されてきた。但し、これまでの研究は、あくまでも静的な内部磁場に対するπ電子の応答の研究であって、その動的応答の研究は前例がない。本計画研究では、分子の内部自由度の中で、スピンの自由度を積極的に利用する。Fe などの局在3d スピンや局在πスピンを持つ有機導体に注目し、磁場中で、外部から高周波電磁波を加えることで、局在3d 電子等の局在磁気モーメントの向きを反転し(電子スピン共鳴)、π電子が見る内部磁場を変動させ、π-d相互作用を起源とする物性(磁場誘起超伝導や巨大磁気抵抗など)を制御することに挑戦する。これは、単に「電子スピン共鳴の抵抗測定」に留まらない、局在するスピン自由度を利用した新規の電子相制御を目指すものである。さらに、パルス高周波電磁波を利用して、電子輸送の動的、過渡的特性を調べる。


A04班:光による電子相制御 構成メンバー
 本研究では、テラヘルツから真空紫外域にわたる超短パルス光(電磁波)を積極的に利用して、電子系と分子自由度の相互作用による集団光応答を検出し、その機構を解明する。さらに、物質を最適化し、集団光応答に基づく電子相制御の実現を図る。具体的には、高時間分解能ポンププローブ分光、テラヘルツ時間領域分光、レーザー光電子分光を柱とし、分子性導体の光応答の研究に適した測定手法として確立する。高時間分解能ポンププローブ分光では、時間幅20 フェムト秒以下の超短パルス光を用いて、電子系の応答と分子自由度のダイナミクスの実時間観測を行う。テラヘルツ時間領域分光では、ミリeV 領域における精密分光とポンププローブ分光の手法を用いて、電荷秩序や密度波の形成・融解のダイナミクスを検出する。さらに、高出力テラヘルツ光源を用いた分子振動の直接励起による相制御を試みる。レーザー光電子分光では、真空紫外域のパルスレーザーを光源として、フェルミ準位近傍の状態密度の精密測定とそれを拡張したポンププローブ分光の手法を用いて、フェルミ面やギャップの直接観測とそのダイナミクスの検出を行う。様々な電子相における系統的な測定から、集団光応答を得るための物質設計指針を提示する。結果を合成グループにフィードバックすることによって分子や分子配列の最適化を行い、巨大集団光応答を示す新規物質系を開拓する。以上の研究を領域内の強力な連携のもとに進め、光による超高速・高効率の電子相制御及び物性制御を実現する。


A05(a)班:新しい電子機能を目指した分子内自由度の開発 構成メンバー
 分子自由度を用いた物質開拓において、分子の内部構造自由度に着目した設計を行う。分子性凝縮系の電子物性を支配する共役電子系の形状、大きさ、更に、共役系を構成するヘテロ原子の種類と共役系内での位置を自在に設計する。主たる設計指針は後述の通りであり、実際に合成した分子、或いは、その錯体の構造と物性を検討し、新規な電子物性の発現を目指す。比較的小さなπ電子共役系を持つ導電性成分分子の錯体を開拓する。分子サイズが小さい場合、強い電子-格子(分子振動)相互作用の発現みならず、際立った分子変形を伴う相転移も期待される。また、外場変化に巨大な応答を示す、多重不安定性を持つ電子相の実現が期待される。一方で、既に20 個程度のpz-軌道からなる比較的大きなπ電子共役系を用いて、安定な金属状態を示す錯体を得る方法がほぼ確立されている。これを出発点として、超伝導体や、新規な共役系を持つ導電性成分分子の開拓を行う。また、導電性を担うπ電子系に加え、別機能を持つ部位、即ち、光応答性部位を同一分子内に導入することで、電子物性の光制御を試みる。π電子共役系の幾何学的な構造を制御することにより、安定な開殻中性種を構築し得る。これらを用い、分子間化学結合の可逆的な生成・消滅を含む新規電子機能物質の開拓を行う。得られた機能性物質を領域内外に提供するのみならず、構造と基本物性に関する情報の共有・提供を行う。


A05(b)班:新しい電子機能を目指した分子間相互作用の制御 構成メンバー
 本研究では、多様な分子の自由度を利用して、分子間相互作用の制御を行い、外場応答により静的および動的な新電子機能を示す分子性物質を開拓する。具体的には、ドナー分子に多様な立体配座を導入し、π電子系を拡大・縮小して、分子間の距離、二量化の程度を系統的に変化させ、結晶中の電子相関を制御し、反強磁性相、電荷秩序相、超伝導相、金属相、誘電相と複数の相が競合し、電場、磁場、温度、圧力、光などの外場応答により、超伝導、非線形伝導、巨大磁気抵抗、強誘電性、強磁性など、興味深い静的・動的機能性を発現する分子性物質を開拓する。また、多様な機能性を有する有機配位子を開発し、伝導性、誘電性、磁性を担う有機配位子サイトと、d電子あるいはf電子により磁性を担う金属イオンサイトの相互作用を構造的に制御して、新しい多重機能性分子性金属錯体を開拓する。さらに、A05(b)で特徴的なことは、物性理論家が加わり、A05(b)班で開発した分子性物質における超伝導、電荷秩序、モット転移、熱電効果などの物性を理論的に調べ、そこで得られた知見を物質合成にフィードバックすることで、より興味深い物質への道を切り開く。物質開拓ではA05(a)班と、外場応答ではA01-04班と緊密に協力し研究を遂行する。